最高裁判所第二小法廷 昭和41年(あ)1135号 決定 1967年4月06日
本店所在地
盛岡市上田字西下台一六番地
岩手製綿株式会社
右代表者代表取締役
鎌田逸郎
本籍
盛岡市上田字西下台一六番地
住居
東京都練馬区豊玉北四丁目二八番地
岩手製綿株式会社代表取締役
鎌田逸郎
明治三〇年一〇月一日生
右法人税法違反各被告事件について、昭和四一年四月一九日仙台高等裁判所の言い渡した判決に対し、被告人らから上告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人佐藤邦雄の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて、同四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)
上告趣意書
○昭和四一年(あ)第一一三五号
被告人 岩手製綿株式会社
右代表者代表取締役 鎌田逸郎
同 鎌田逸郎
弁護人佐藤邦雄の上告趣意(昭和四一年六月二五日付)
第一点 原判決は重大な事実についての事実の審理を尽さないか、または、重大なる事実の誤認があり破毀しなければ著しく正義に反するものと思料する。
原判決認定の事実は、別紙添付判決書写の通りである。原判決が認定(第一審判決も同一)申告した所得額と、実際の所得額との差額は、
一二、二〇四、一二一円
であるが、その内訳は
三、二二六、四六六円 架空仕入
八、八七七、六五五円 棚卸の除外
であつて、架空仕入、三、二二六、四六六円については被告も認めて居り争がない。しかし、棚卸の除外八、八七七、六五五円については、被告人の極力争うところである。
棚卸の除外が申告より八、八七七、六五五円多額であるとの事実についても争があるが、仮りに右金額だけ、申告より多額の棚卸があつたとしても、昭和三十六年度一年だけで右金額に相当する帳簿外資産を持つことは、事実上不可能な数字である。
本件は昭和三十六年の所得として起訴されているのであるから、若し右金額に相当する帳簿外資産があつたとしても、それが多年に亘る蓄積にかかる、所謂、含み資産である場合には、これを昭和三十六年度の所得として、処罰の対象とすることは違法である。
被告会社の昭和三十六年度の商品販売高は、約一億五千万円であり、そのうち綿を原料とする商品は約七千五百万円であるが、綿の減耗率は平均して約一〇パーセントということは、原審加藤功証言(国税局官吏)武蔵佐太郎証言によつても明な通り、常識となつているのである。従つて本件のように大部分綿の帳簿外棚卸資産が問題となつている事実に於て八、八七七、六五五円という多額な帳簿外資産を昭和三十六年度だけで、うみ出すなどということは著しく経済の常識に反することである。
即ち原判決には、事実の審理を尽さないか、または、重大なる事実の誤認がある。特に政府の援助のない中小企業のような資本力の弱い会社に於て、所謂含み資産(多年に亘つて蓄積)を持つことは、景気の変動のはげしい戦後経済に於ては、堅実な経営の基礎をなすものである。
要するに原判決は、多年に亘る所得を昭和三十六年度一年間の所得と認定したことは、不当であり破棄せらるべきものと思料する。 以上
(添付の判決書の記載省略)